空き家特例の適用要件「相続後の利用制限」について解説
本記事では相続した(またはこれから相続する)不動産を売却する際の空き家特例適用要件である「相続後の利用制限」について、以下3項目について詳しく解説していきます。
1.無償でも貸していたら適用不可
2.相続した土地を一部売却、残りを貸す場合について
3.店舗兼住宅の場合に相続人が店舗部分の事業を継続した場合は適用不可
特に相続発生から譲渡完了までの期間が空いた場合に、うっかり利用制限の規定に抵触してしまい、空き家特例の適用要件が満たせなくなってしまったというケースも見受けられます。
空き家特例適用有無によって、場合によっては数百万円~一千万円単位で税支出が変わってくることもありますので、注意が必要です
なお、空き家特例の制度全般について解説を行っている記事がありますので、そちらも併せてご覧くださいませ。
https://tomorrowstax.com/knowledge/202107189172/
また、本記事において論点としている事項以外は全て空き家特例の適用要件を満たしているものとします。
1.無償でも貸していたら適用不可
■相続発生時から譲渡完了時までに一時的でも無償でも貸してしまうと適用不可になる
租税特別措置法第35条③において、空き家特例適用要件の一つとして「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。」という定めがあります。
仮に親族に無償で貸した、一時的に住ませたという場合であっても、上記制限に抵触しますので、空き家特例の適用が不可になってしまいます。
相続の時から譲渡の時まで少し時間が空くからといって、その間に貸付け等を行うことの無いようにご注意ください。
2.相続した土地を一部売却、残りを貸す場合について
少々ややこしいのですが、以下のパターンによって結論が変わってきます。
- 単独で相続した後に分筆
- 共有で相続した後に分筆
- 複数の筆をそれぞれ単独で相続した
■2-①単独で相続した後に分筆
例えば、被相続人が父、相続人は長男1人と仮定します。長男は対象不動産(1つの家屋と1筆の土地)を相続した後、家屋を取り壊し土地を2区画に分筆し、1区画を駐車場として貸した後、残る1区画を譲渡した場合は空き家特例の適用は受けられません。
では、同じケースで、分筆した後に1区画を譲渡し、その譲渡後に残る1区画を駐車場として貸した場合はどうでしょうか?この場合は空き家特例の適用が認められます。
租税特別措置法第35条③「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。」とあるように、利用制限は相続の時から譲渡の時までが対象となるためです。
■2-②共有で相続した後に分筆
ここでは被相続人が父、相続人は長男と長女の2名と仮定します。対象不動産の家屋・敷地(1筆)ともそれぞれが1/2ずつ共有で相続し、建物を取り壊しました。その後、土地を2区画に分筆し長男と長女がそれぞれの土地を単独名義で所有するように分割しました。
長男が当該地を貸し出した後、長女が譲渡した場合に長女は空き家特例の適用が認められるかどうかなのですが、これは適用不可となります。
この場合、利用制限の判定については、分筆前の土地全体において満たしている必要があります。(国税庁HP措通35-17(3)ロ)
なお、長女が譲渡した後に長男が貸し出した場合は長女の特例適用は認められます。上記2-①参照。
■2-③複数の筆をそれぞれ単独で相続した場合
被相続人が父、相続人が長男と長女の2名と仮定します。対象不動産は父が所有していた土地2筆とその上に建っている家屋1つです。その内土地1筆と家屋を長男が相続し、残る土地1筆を長女が相続した場合を想定します。
建物を取り壊した後、長女が土地を貸し出し、長男が土地を譲渡しました。この場合に長男は空き家特例の適用が認められるかですが、これは適用可となります。(国税庁HP措通35-17(3)イ注意書き)
3.店舗兼住宅の場合に相続人が店舗部分の事業を継続した場合は適用不可
■この場合の論点は小規模宅地の特例と空き家の特例、どちらが有利か判断することです
前述の通り、空き家特例の適用要件には租税特別措置法第35条③「相続の時から譲渡の時まで事業の用、貸付けの用又は居住の用に供されていたことがないこと。」という利用制限があります。そして小規模宅地の特例には相続税申告期限までの事業継続要件があります。
どちらを選択した方が有利になるか、税理士等にも相談のうえご検討頂くことをお薦めします。
なお、小規模宅地の特例については以下記事で徹底解説してますので、ご興味ある方はご参照ください。
https://tomorrowstax.com/knowledge/202102186403/
4.まとめ
本記事では空き家特例適用要件の一つである利用制限について解説しました。空き家特例適用要件の中でも、認識不足等でうっかりミスしてしまいがちな部分ですが、注意することで当該利用制限に抵触することなく、空き家特例の活用が可能になると考えます。空き家特例の適用をご検討されている方にとって、本記事が少しでも何かお役に立てば幸いです。