空き家を売却する際の注意点について解説(売買契約の設定条件編)

本記事では相続した(またはこれから相続する)空き家を売却する際の注意点について、売買契約における設定条件の側面から解説していきます。

実務において、お客様が過去締結済みの売買契約書を拝見させていただく機会が多いのですが、中には売主側に極めて不利な条件が設定されていたり、現実的に成就する可能性が低く取引の安全性に欠けるような条件が設定されていることに驚くことがあります。

それら条件の説明を受け、リスクも納得のうえで売却をしたのかどうか確認すると、残念ながらほとんどのお客様は内容も理解せずに契約を締結してしまっています。

どのような条件を設定するかによって、売主側の負担は大きく変わりますし、最悪の場合は売買契約の解除やトラブルに発展する可能性もあります。

そのようなことが無いように、私が売主だったらどうするかという視点も入れながら、出来るだけ実態に沿った内容を本記事では書いていきます。

これから空き家のご売却を検討されている方も、これから相続する予定の方も是非本記事を参考にしてみてください。

なお、相続した空き家をご売却した際に、空き家の特例という制度が適用できる可能性があります。これは空き家をご売却した際の税支出を抑えられる制度になっています。制度全般について詳細に解説を行っている記事がありますので、気になる方はそちらも併せてご覧くださいませ。

https://tomorrowstax.com/knowledge/202107189172/

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売主責任か買主責任か、売買条件ごとに解説します

あくまでも相続した空き家を売却するケースを想定していますので、売主になる相続人は対象不動産には住んでおらず(住んでいたとしても随分昔の話)、遺産分割等の関係から出来るだけ売買契約が解除になるリスクを排除しつつ、高値を目指すという売却方針を前提に考えています。

1確定測量

→売主責任を推奨します。

なぜなら、確定測量を売主側で実施しないとなると売買価格へ与えるマイナスの影響が大きいうえに、確定測量が出来ないというケースは現実的には少ないからです。

特に買主が購入後土地の分割を計画している場合に、万が一確定測量が出来なかった場合には土地の分割が困難になるため、事業計画及び収支予想の変更が余儀なくされます。そういったリスクを買主が背負う分、売買価格は減額されることになります。

但し、確定測量を売主責任で実施するということは、何らかの理由で確定測量が出来ない場合には売買契約が解除になるということですから、売買価格が低くなっても解除リスクを減らしたいというご意向が強ければ、買主責任とすることも可能です。特に土地の分割が出来ないような形状や規模の土地であれば、売買価格への影響も限定的であると考えられますので、私だったら売主責任の場合と買主責任の場合の両方の購入希望金額を確認し、判断します。

2.地積更正登記の実施

→買主責任を推奨します。

地積更正登記とは、登記簿記載の面積と実際に測量した面積(実測面積)と差異が生じた時に、登記簿記載の面積を実測面積に修正する登記のことです。土地を分筆する際には、地積更正登記が必要になるケースが多いのですが、これは確定測量が完了していれば、出来る手続きなので、わざわざ売主側が費用負担してまで地積更正登記をする必要はないと個人的には考えます。なお、現場感覚で言うと、買主が大手不動産業者の場合には地積更正登記を売主に実施してもらうよう要請されるケースが多く、中小系の会社では最初から条件に入れてこないケースが多いです。

3.私道の通行掘削の承諾書取得

→買主責任を推奨します。

前面道路が私道の場合には一般的に当該私道部分の所有者から車両等の無償通行及び掘削の承諾書を取得する必要があります。これは後々のトラブル回避のためや、道路を掘って水道管等のインフラ工事を行う際には、私道所有者の承諾がないと工事が出来ないと言われてしまうことがあるためです。但し、私道によっては権利者が数十名いたり、近所に住んでない・既に亡くなっている・連絡先不明等により承諾書の取得に時間を要することがあります。基本的には仲介会社が動くことになるので、売主にとって実務的負担にはならないケースが多いですが、ごく稀に承諾書の取り交わしを拒否されてしまったり、取得に時間がかかり売買契約の期日までに間に合わず契約解除等といったこともあります。買主によっては、当該承諾書の取得有無では売買価格に影響がない(もしくはあってもごく僅か)ということもありますので、当該承諾書の取得は買主責任でお願いしてみると良いでしょう。なお、買主が住宅ローンを利用されるような個人の買主だった場合には、銀行側からの要求で取得を要請される可能性がありますので、そういった方に売却されたい場合は売主責任による取得が求められることになるかと存じます。

4.越境の是正または将来是正の覚書取得

→買主責任を推奨します。

越境とは、例えば隣地の屋根等の一部がこちらの土地にはみ出しているような状況で、隣地の所有物がこちらの境界ラインを超えてきていたり、逆にこちらの所有物が隣地の境界ラインを超えているような状態を言います。境界線をまたがるように築造されているブロック塀も、隣地所有者が築造されたものであればそれは越境という扱いになります。これら越境の是正または将来隣地が建物を建替える時に是正する旨の覚書取得(将来是正の覚書)を求められることがあります。これも売買価格に影響がない(もしくはあってもごく僅か)ということもありますので、当該承諾書の取得は買主責任でお願いしてみると良いでしょう。

5.室内残置物の撤去

→買主責任を推奨します。

次項の空き家の解体除去とセットで考えると良いのですが、室内残置物の撤去と空き家の解体除去はセットで行うと別々で行うよりも安価に抑えられる可能性が高いです。また、解体中はどうしても騒音・振動等の発生により近隣とトラブルになることもあります。その結果、1で記載した「確定測量」が不調に終わってしまい、売買契約が解除になってしまうリスクが生じることもありますので、ご売却完了前の不要なトラブルは出来るだけ回避するためにも残置物撤去と空き家の解体除去はどちらも買主に行って頂くと良いでしょう。なお、残置物が膨大な量である場合(所謂、ゴミ屋敷のような場合)であっても買主責任で撤去して頂くことはできます。

6.空家の解体除去

→買主責任を推奨します。

前述の通りですが、コスト面とご売却完了前の不要なトラブル回避の観点から、買主にて行って頂くことを推奨いたします。

7.ブロック塀のやり替え承諾

→買主責任を推奨します。

ブロック塀の老朽化・傾き・一定以上の高さを超えている場合等により、買主希望のブロック塀にやり替えるよう隣地から承諾を得て欲しいと言われることがあります。隣地からは「どのようなブロック塀が新規に築造されるのか、費用負担はどうなるのか、当該地には何を建築する予定なのか」等、買主でないと回答し辛い質問がきたり、それらがはっきりしないと承諾書への署名捺印は出来ないなんて言われることもあります。これも売買価格に影響がない(もしくはあってもごく僅か)ということもありますので、当該承諾の取得は買主責任でお願いしてみると良いでしょう。

8.地中埋設物の撤去

→買主責任を推奨します。

地中埋設物とは、空き家を解体後、地中を掘り起こした際に出てくる井戸・浄化槽・昔の建物の基礎・コンクリート廃材等、当該空き家とは関係のないもののことで、これらが出てきた場合にどちらが撤去費用を負担するかという問題が生じます。これは買主責任で撤去してもらうようにしましょう。そのために「契約不適合責任免責」という売買条件を設定し、地中埋設物についても契約不適合責任免責の対象である旨記載するようにしましょう。なお、既に把握している地中埋設物がある場合には売買契約前に仲介会社または買主に必ず伝えるようにしましょう。売買価格には多少の影響は生じますが、地中埋設物が出てきた場合には、多額の撤去費用が掛かる可能性があり、どれくらいの費用がかかるかは事前に予測できるものではないため、契約不適合責任免責にし、地中埋設物の撤去は買主責任としておいた方が得策でしょう。

最後に

本記事では、実務上多く見かけられる売買条件について、売主側のリスクを極力減らしつつ高値を追求するという観点で売主責任にすべきか買主責任にすべきかをまとめました。

これら売買条件は売却開始前にきちんと整理し、売却活動をスタートさせる必要があります。

また、必ずしも本記事で書いた通りにはいかないケースもあります。

不動産の個別要因、売買価格とのバランス、相続人のご意向等に応じて最適な条件設定を行う必要がありますので、売却を依頼する不動産会社とは事前の打ち合わせをしっかり行いましょう。

皆様の不動産売却において、本記事が何か少しでもお役にたてれば幸いです。