空き家特例の譲渡対価1億円について徹底解説

本記事では空き家特例適用要件の1つである「譲渡対価1億円以下」について徹底解説していきます。

空き家特例の譲渡対価について気にされている皆様は、恐らく相続した不動産の売買価格が1億円付近を見込んでいるか超えてしまう可能性があるのではないでしょうか?

意外と論点が多い「譲渡対価1億円以下」ですが、ちょっとしたミスによって適用要件を満たせなくなり、数百万円~最大2千万円程の税負担が増えることもありますので、注意が必要です。

本記事では実際にご質問頂くことの多い以下4点について細かく解説していきます。

1.譲渡対価1億円に含まれるもの

2.売買価格が1億円を超えていても特例適用要件を満たせる場合がある

3.分割売却や共有名義の影響について

4.空き家特例適用か適用せずに高値を目指すべきかシミュレーション

これからご売却を検討されている方も、これから相続する予定の方も是非本記事を参考にしてみてください。

なお、当グループの税理士法人トゥモローズHPにて空き家特例の制度全般について解説を行っている記事がありますので、そちらも併せてご覧くださいませ。

https://tomorrowstax.com/knowledge/202107189172/

また、本記事において論点としている事項以外は全て空き家特例の適用要件を満たしているものとします。

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面談は何度でも無料ですので、ぜひ一度お問い合わせください。

1.譲渡対価1億円に含まれるもの

 1-1.固定資産税等清算金

→含まれます。

通常の不動産取引においては、残代金決済時に固定資産税等の清算を行います。これは法律的に規定されているものではなく、不動産取引における慣例であり、譲渡対価の一部を成すものであると解されています。

 

1-2.買主負担の解体費用

→含まれます。

ここは割と見落としがちなポイントです。特に令和5年度税制改正によって、これまで譲渡前に解体する必要があったものが、譲渡日の翌年2月15日までに解体すれば良いとなったことから、実務においては譲渡後に買主が建物を解体するケースが増えました。あらかじめ買主に解体費用の見込み額をヒアリングし、実際にかかった解体費用についても確認しておく必要があります。

 

1-3.買主負担の測量費用

→含まれる可能性が高いと思われます。実務において、測量費用は売主負担とするケースが多いですが、まれに買主負担として売買するケースがあります。措通35-19(譲渡の対価の額)によると、勘定名目のいかんを問わず、譲渡の対価たる金額は含まれるとしています。実際に、測量負担を買主にすると、売買金額に影響が発生することになると考えられますので、譲渡の対価に含むものと捉えられることになりそうです。なお、国税庁電話相談センターで確認した際には、やはり含まれるという見解でした。

 

2.売買価格が1億円を超えていても特例適用要件を満たせる場合がある

 

2-1.被相続人が居住していた母屋(面積150㎡)の他に倉庫(30㎡)と車庫(20㎡)が敷地(500㎡)にあり、それらを1億2,000万円にて売却した場合に特例の適用は認められるのか?

→認められます。

母屋とその他建築物の合計床面積のうち、母屋の床面積の割合に応じて、敷地面積を計算します。上記例で言うと、敷地500㎡の内「150(母屋面積)/200(床面積合計)」、つまり375㎡に相当する部分が適用となり、譲渡対価1億2,000万円の内、375/500である9,000万円が譲渡対価とみなされるので、譲渡対価1億円以下を満たすこととなります。なお、登記の有無は関係ありません。(未登記だからと言ってカウントされない訳ではない。)但し、特例適用を認められるためのみの目的で、相続開始直前に一時的に居住用途以外のものを設置する等しても、その部分は譲渡対価1億円に含まれることとなります。(措通35-22(3))

 

2-2.被相続人が店舗兼住宅(店舗部分100㎡・居住部分100㎡)に居住していた場合に、当該家屋をその敷地とともに相続した相続人が1億2,000万円にて売却した場合に特例の適用は認められるのか?

→認められません。

上記2-1と同じように考えると、居住部分が床面積合計の半分なので、譲渡対価6,000万円として特例の適用が認められそうな気もしますが、譲渡対価1億円以下か否かを判定する上では、この按分は認められません。(措通35-22(5))

あくまでも2以上の建築物のある一団の土地であった場合が該当します。(措通35-22(4))

 

3.分割売却や共有名義の影響について

 

3-1.母が亡くなり、被相続人居住用家屋及び敷地を長男と次男がそれぞれ持分1/2ずつ相続で取得した後、土地を分筆し長男が6,000万円で売却、同時期に次男も6,000万円で売却した場合に特例の適用は認められるか?

→認められません。この場合は二人とも特例適用は認められません。被相続人居住用家屋や敷地を相続した相続人が他にいる場合、例え分筆を行いそれぞれ別々で取引を行ったとしても、譲渡対価1億円以下か否かの判定においては合算されることになります。但し、これには合算される期間が定められており、例えば次男が特例適用を諦め、長男が譲渡した時から4回大晦日を経過後に次男が譲渡するようにすれば、合算しなくて済むようになります。(措法35-7)

(例)2025年4月1日に長男が6,000万円で譲渡し特例適用、2029年1月1日以降に次男が6,000万円で譲渡(特例は適用不可)することは可能ということです。

 

3-2.母と長男が1/2ずつ共有で所有していた居住用家屋及び敷地(当該地には母が一人暮らししていた)を、母が亡くなったため、次男が母持分の全てを相続で取得し、長男と次男が当該不動産を1億2,000万円で売却した場合に特例の適用は認められるか?

→認められます。

長男が母持分を家屋及び敷地のどちらも相続していないことがポイントです。この場合、長男持分は譲渡対価の算定においては合算されないため、次男持分である6,000万円が譲渡対価の額とされ、譲渡対価要件1億円以下を満たすこととなります。(措通35-20)

なお、仮に長男が家屋又は敷地の一部でも相続をしていると、合算対象になるので、ご注意ください。

3-3.母と長男が1/2ずつ共有で所有していた居住用家屋及び敷地(当該地には母が一人暮らししていた)を、母が亡くなったため、長男が母持分の全てを相続で取得し、当該不動産を1億2,000万円で売却した場合に特例の適用は認められるか?

→認められません。

上記3-2でも触れましたが、被相続人から居住用家屋又はその敷地を相続等で取得した場合、元々所有していた持分も一体として譲渡対価1億円の判定対象となります。

 

4.空き家特例適用か適用せずに高値を目指すべきかシミュレーション

 

本シミュレーションにあたっては以下を前提にしております。

・譲渡所得税等税率は20.315%

・売却時諸経費は売買価格の5%

・取得費は売買価格の5%

4-1.相続人1名の場合

売買価格

売却時諸経費

譲渡所得税等

手取り額

95,000,000円

4,750,000円

11,274,800円

78,975,200円

99,000,000円

4,950,000円

12,006,100円

82,043,900円

105,000,000円

5,250,000円

19,197,600円

80,552,400円

107,000,000円

5,350,000円

19,563,300円

82,086,700円

本ケースでは、1億500万円で売却するよりも、9,900万円で売却して空き家特例の適用を受けた方が最終的な手取り額は多くなることが分かります。1億700万円以上を目指せるのであれば、特例適用を諦めて高値追及をした方が手取り額は増えることとなります。

 

4-2.相続人2名の場合

売買価格

売却時諸経費

譲渡所得税等

手取り額

95,000,000円

4,750,000円

5,180,300円

85,069,700円

99,000,000円

4,950,000円

5,911,600円

88,138,400円

110,000,000円

5,500,000円

20,111,800円

84,388,200円

115,000,000円

5,750,000円

21,026,000円

88,224,000円

相続人が2名となると、特例適用が出来る場合には控除額が「3,000万円×2=6,000万円」となるため、所得税等の圧縮効果が高まり、9,900万円で売却する場合と1億1,500万円で売却する場合の手取り額がほとんど変わらない結果となりました。仮に1億超~1億1,500万円までの売買価格になりそうな場合、譲渡対価1億円以下に抑える代わりに、売主側に有利な条件設定をしてもらう等は買主に対して交渉余地があると思います。

 

4-3.相続人3名の場合

相続人が3名の場合は特例適用が出来る場合の控除額が1人当たり2,000万円になり、「2,000万円×3=6,000万円」になるため、上記4-2のシミュレーションと同じ結果となります。

 

このように、ただ高値を追求するだけではなく、税支出も考慮した最終的な手取り額で売買価格等を考えた方が良いケースもあります。なお、空き家特例の適用にあたっては譲渡対価1億円以下という要件以外にも様々な適用要件がありますので、慎重に確認しておく必要があります。

 

5.まとめ

 

本記事では空き家特例適用要件の1つである「譲渡対価1億円」について解説しました。

譲渡対価に含まれるものや、居住用途以外に供している場合の判定基準、また分割して売却した場合や共有名義の場合の注意点等について触れ、1億円前後での手取り額シミュレーションも行いました。

税支出を考えると、最終的な手取り額が大きく変わることもお分かりいただけたかと思います。

本記事が空き家特例の適用をお考えの方々にとって、何か少しでもお役に立てば幸いです。