空き家特例適用における共有名義不動産の注意点
本記事では共有名義で相続した(またはこれから相続する)不動産を売却する際の空き家特例適用における注意点を解説します。
特に皆様からご質問の多い以下3点について細かく解説をしていきます。
- 相続した共有名義人数が3名以上になると空き家特例の適用限度額が各人3,000万円から2,000万円に変更
- 相続した共有名義人の数に関係なく、譲渡対価の合計額は1億円以下でないと空き家特例は適用不可になる
- 家屋と敷地の両方を相続で取得する必要がある(例:家屋は長男、敷地は長女では適用不可)
共有で相続した不動産を売却し空き家特例を適用する場合、遺産分割協議の段階から注意しておく必要があります。
空き家特例を適用出来るか否かによって、ご売却後の手取り額が大きく変わる可能性がありますので、これからご売却を検討されている方も、これから相続する予定の方も是非本記事を参考にしてみてください。
なお、空き家特例の制度全般について解説を行っている記事がありますので、そちらも併せてご覧くださいませ。
https://tomorrowstax.com/knowledge/202107189172/
また、本記事において論点としている事項以外は全て空き家特例の適用要件を満たしているものとします。
1. 相続した共有名義人の数によって変わる空き家特例の適用限度額
相続した共有名義人の数によって空家特例の各人適用限度額が変わります。また、共有名義人の数についての判定基準も抑えておく必要がありますので、解説していきます。
1-1.令和6年1月1日以降に行う譲渡から適用限度額が変更
令和5年度税制改正により、これまで共有名義人の数に関係なく適用限度額は各人3,000万円だったものが、共有名義人3名以上の場合には適用限度額は各人2,000万円に変更になりました。
1-2.相続人自体は3名以上いるが空き家特例適用予定の不動産を相続した人が2名以下の場合はどうなる?
適用限度額は各人3,000万円となります。
1-3.相続人の数に上限数はあるのか?
ありません。
要件を満たす相続人については何人でも適用可能です。仮に空き家特例適用予定の不動産を5名で相続した場合、「5名×2,000万円=1億円」が適用限度額の合計額になります。
1-4.当初2名(A・B)で相続した後、譲渡する前に内1名(B)に相続が発生し、Bの相続人であるC・Dが取得、結果的にA・C・Dの3名で譲渡することになった場合はどうなるのか?
Aのみ適用限度額3,000万円が認められます。
結果的に名義人3名での譲渡となりましたが、措通35-9の6にある通り、本件のような場合は相続人の数の判定には影響は及びません。なお、C・Dは空き家特例の適用は認められません。
1-5.相続等により取得した者が2名(B・C)、既に相続不動産の持分を所有していた者が1名(A)いる場合はどうなるのか?
特例適用における相続人の数は2名と判定し、各人適用限度額は3,000万円となります。
あくまでも被相続人から相続等により取得した相続人の数で判定されます。なお、この場合Aは相続等により取得していないため空き家特例は適用不可となります。
2. 相続した共有名義人の数と譲渡対価1億円との関係
2-1.相続した共有名義人数によって特例適用要件の譲渡対価1億円の制限は変わるのか?
変わりません。
共有名義人の数が何名であっても譲渡対価は1億円以下である必要があります。なお、譲渡対価には固定資産税清算金や買主負担で解体する場合の解体費用も含まれます。
2-2.仮にAの死亡によりBが持分50%取得、CとDがそれぞれ25%ずつ取得した場合に、全体の譲渡対価が1億2,000万円だったとして、Dは特例の適用を諦め、BとCだけ特例適用を受けることは認められるか?
認められません。
本件の場合、持分に応じて計算するとBは6,000万円、Cは3,000万円の対価を得ているので、合計しても9,000万円であり1億円以下になるから、Dが特例適用を諦めれば良いのでは?と考える方もいるのですが、対象不動産を複数名で相続により取得している場合、譲渡対価全体を基に適用可否が決まりますので、本ケースでは特例適用は認められません。
2-3.上記2-2のケースで、譲渡前にDが死亡しEがD持分を相続した場合。B(持分50%)・C(持分25%)・E(持分25%)3名が名義人として対象不動産を譲渡(全体の譲渡対価は1億2,000万円)した場合、B・Cは特例の適用が認められるか?
認められます。
譲渡対価1億円の判定をするにおいては、当該事例でいうAから対象不動産を相続しているか否かがポイントになります。Dから相続しているEについては空き家特例の適用も受けられませんし、1億円の判定からは除かれます。
2-4.Aの死亡により、Bが家屋の持分全てと敷地の持分1/2を相続し、Cが敷地の持分1/2を相続後、家屋を取り壊して敷地を譲渡する場合、譲渡対価が仮に1億2,000万円(B・Cともに譲渡対価は6,000万円ずつ)だった場合にBは特例の適用が認められるか?
認められません。
空き家特例の適用にあたっては、被相続人から家屋と敷地の両方を取得する必要があるので、Cは大前提として当該特例の適用は認められません。ではその場合にBがどうなるのかということですが、本件のように同一の被相続人から相続等により家屋又は敷地を取得している相続人が他にいる場合、その人の特例適用が認められなかったとしても、譲渡対価1億円の判定には含まれてしまいます。よって、本件の場合はB・Cどちらも特例の適用が不可となります。
2-5.上記2-4のケースで、Bが特例の適用を受ける方法はないか?
あります。
例えばですが、対象不動産を分筆し、BとCがそれぞれの土地を単独で所有するようにします。譲渡対価も分かりやすく半分の6,000万円とし、Bが6,000万円で譲渡したあと、当該譲渡をした年の翌年1月1日から当該譲渡をした日以後3年を経過する日の属する12月31日より後(簡単に言うと、譲渡した日から4回大晦日を経過後)にCが売却することで、譲渡対価1億円の判定に含まれなくて済むようになりますので、Bは特例適用が受けられることになります。
3. 家屋と敷地の両方を取得する
3-1.Aが亡くなり、Bが家屋をCがその敷地をそれぞれ相続しました。B及びCは空き家の特例は適用できますか?
適用できません。
空き家の特例適用要件の1つとして、家屋と敷地の両方を相続しなければなりませんので、遺産分割等を行う際には注意が必要です。
3-2.父が家屋を所有、母が敷地を所有しており、5年前に父が亡くなり長男が家屋を取得、昨年母が亡くなり長男が敷地を取得した場合に特例の適用は認められるか?
認められません。
長男は家屋と敷地の両方を相続しておりますが、特例の適用には同一の被相続人からの相続により取得したものでなければならないため、認められません。
3-3.父から生前に家屋の贈与を受けており、その後父が亡くなり敷地も取得した場合に特例の適用は認められるか?
認められません。
結果的に家屋と敷地の両方を取得しておりますが、特例の適用にはあくまでも家屋と敷地の両方を相続により取得しないと認められません。
3-4.上記3-1の通り遺産分割協議が完了しましたが、空き家特例の適用要件がクリア出来ないことを後で知り、BC合意のもとに遺産分割協議をやり直しました。その結果、B及びCが家屋と敷地を持分1/2ずつ取得した場合は特例の適用は認められますか?
認められません。
遺産分割のやり直しにより取得した場合は原則として相続により取得したことにはならないため、特例適用は認められません。但し、遺産分割協議が無効等の事由に該当する場合はやり直しによる取得でも認められる場合があると考えられます。
4. まとめ
空き家特例の適用にあたっては、相続手続き完了後では取り返しのつかない状態になっているケースも見受けられ、特に相続人が複数名おり、共有で相続する場合に問題が発生しやすいと感じています。
相続財産の中に空き家が含まれており、ご売却をご検討される場合には遺産分割協議の段階から注意していく必要があります。
特例適用可否によって、名義人様全員の合計手取り額は数百万円から場合によっては一千万円単位で変わってくることもありますので、慎重に進めなくてはなりません。
本記事が、皆様がミスなく空き家特例を活用することができ、共有者の方とともに不動産売却を成功に導くきっかけに少しでもなれば幸いです。